すべての派遣事業者は労働者派遣法(以下、派遣法)に則って派遣事業を行わなければなりませんが、中でも「キャリアアップ措置」について、なにをすべきか分からないという声をいただくことがあります。
そのため、今回は特に派遣労働者のキャリアアップという観点から、キャリアアップ措置について説明を行います。
これから派遣事業を始める場合にも、事業の中でキャリアアップ措置に関する悩みを抱えている場合にも参考にしていただける記事となっています。
1.キャリアアップ措置とは
具体的な方策を挙げる前に、一度キャリアアップ措置について整理してみましょう。
そもそもキャリアアップ措置とはどのような意図で、どのようなことを求めているものなのか解説していきます。
また、この措置の対象者や必要な訓練についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
1-1.派遣労働者がキャリア形成をするための教育体制のこと
キャリアアップ措置を簡単に説明すると、「派遣労働者のためのキャリアに関する教育を施すこと」となります。派遣労働者として業務に従事する中で、本人の希望や適性に沿ったキャリアを歩んでいくために最も重要なのは、教育と言っても過言ではありません。
そして適切な教育を行い、必要があればキャリアコンサルティングを行うことは派遣事業者の役目です。
そのため、派遣法ではキャリアアップ措置が義務づけられており、段階的かつ体系的な教育訓練の実施と、キャリアコンサルティングの実施が求められています。
1-2.キャリアアップ措置の対象者
措置の対象者となるのは、派遣事業者において雇用されている派遣労働者です。
そしてキャリアアップ措置に関する義務は派遣元だけでなく、派遣先にもあります。
それぞれ行うべき措置は異なるので、どちらの対象となっているのかを事前に把握しておきましょう。
派遣元と派遣先には、それぞれ以下のような措置が義務づけられています。
1:派遣元の義務
- 労働局への教育訓練計画の提出
- 計画的な教育訓練の実施
- 希望者へのキャリアコンサルティングの実施
- 教育訓練などの実施状況の報告
- 派遣元管理台帳などにおいて教育訓練の実施状況を記録すること
2:派遣先の配慮義務・努力義務
- 派遣労働者が希望した場合には、対象者へ教育訓練を受けられるよう可能な限りの協力や配慮を行うこと
- 派遣元の求めに応じ、派遣労働者のキャリアアップ支援に必要な情報を派遣元へ提供すること
1-3.キャリアアップ措置に関する注意点
特に派遣元がすべき措置は多いですが、その中で気をつけなければならないことがあります。
厚生労働省が定めている条件をもとに、いくつか注意すべきポイントをご紹介します。
- キャリアアップ措置は、「派遣事業元に雇用されている派遣労働者全員」が対象でなければならない
- 教育訓練は有給かつ無償で行われなければならない
- 雇用期限がない派遣労働者に対しては長期的なキャリアアップを視野に入れたキャリアアップ措置を行わなければならない
上記のほかにも注意すべきポイントはありますが、特にこちらの3つのポイントについては気を配る必要があります。
2.具体的にはなにをしたらよいか
キャリアアップ措置の概要を把握したところで、より具体的な内容に移っていきましょう。
今回は特に派遣事業元が行うべきことについてまとめています。
2-1.キャリアアップ教育訓練実施計画を労働局に提出する
2015年の派遣法の改正以降、派遣事業者は「キャリアアップに資する教育訓練」の計画を策定し、提出しなければならなくなりました。
基本的にはキャリア形成を目的とした教育訓練を、主に「どの段階で」「どのように」「なぜ」行うのかまとめ、教育訓練の実施計画として労働局に提出することになります。
入社年次ごとの教育内容と、その内容で教育を実施することの目的をまとめるのが一般的です。
労働局に認めてもらえれば良いという観点ではなく、派遣労働者に対して真摯に向き合い、明確に記載を行うことが重要です。
2-2.派遣労働者に対して教育訓練を実施する
計画の策定と提出が終わったら、その計画に従って教育訓練を行います。
基本的なビジネスマナーから専門的な技能教育まで、年次や業種によって内容はさまざまです。
ただ忘れてはいけないのは、どれもすべて派遣労働者のキャリアアップのための教育であるということです。
会社のためではなく、あくまで個人のキャリアのためであるということは念頭に置いておく必要があります。
2-3.希望の場合にはキャリアコンサルティングを行う
派遣労働者からキャリアコンサルティングの希望があった場合、派遣事業者はそれに応じなければなりません。
キャリアに関する相談を受ける担当者についても要件が定められており、キャリアコンサルタントとしてふさわしい人を配置する必要があります。
また事務所内に相談窓口を設けるだけでなく、メールや電話、専用フォーム等からもキャリアに関する相談を受け付けられるようにすることが求められているため、適切な受付手段の整備と周知は必須になっています。
3.キャリアアップ訓練はどのように行うべき?
キャリアアップ教育訓練の実施計画をもとに教育訓練を行うと先述しましたが、実際どのようなことを念頭に置きながら訓練を行うべきなのでしょうか。
また、現地での集合研修ができない昨今の状況下で派遣事業者ができることはなにか、解説します。
3-1.従業員のためになる教育訓練を
まず絶対に押さえておかなければならないのは、「派遣労働者のことを考える」ということです。
実施計画を形だけのものにしないためにも、実施する教育訓練の質にはこだわるべきでしょう。
業界や受講者のレベル等によって訓練の内容は変わることが考えられますが、社内でノウハウを持った人がいなければ外部に委託するのも手です。
「派遣の学校」でもキャリアアップのための教育コンテンツを多数用意しています。
ぜひ選択肢の一つとしてご検討ください。
3-2.教育訓練で他社との差別化が可能
教育訓練の実施は全事業者で必須となりましたが、実際に実施されている訓練の質は派遣会社によってさまざまだといえるでしょう。
必要最低限の教育訓練でも基準さえ満たしていれば労働局に認めてはもらえますが、それでは本当の意味でのキャリアアップ教育にはなっていないといえます。
反対に、充実した教育プログラムを用意しそれを広く周知することで、他の派遣会社との差別化ができます。
それほど派遣事業者におけるキャリアアップ措置の重要性は非常に高いのです。
3-3.eラーニングの活用も進む
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、派遣労働者を集めて研修を行う「集合研修」は最近では行われなくなってきています。
代わりに積極的に活用されるようになってきたのがeラーニングでの研修です。
eラーニングの活用で、これまで教育担当者の方が頭を悩ませていた、場所や時間の問題が解消します。
eラーニングを導入したいけれどコンテンツの内製は難しいという場合には、ぜひ「派遣の学校」までご相談ください。
多様な業種に対応した高品質なコンテンツを取りそろえておりますので、現場の負担をかけずに充実したキャリアアップ教育訓練を行うことができます。
3-4.キャリアのコンサルティングも併せて行うことで効果アップ
多くの派遣事業者では教育訓練に重きを置き、キャリアコンサルティングについては力を入れる余裕がないと言うのが実情のようです。
ただ、派遣労働者のキャリアのことを考えると、キャリアコンサルティングは積極的に実施すべきだといえます。
この先のキャリアプランが明確に決まっていて、そのためになになにをすべきか自分自身で明確に理解できている人は少ないものです。
派遣会社でどのようにキャリアを積むべきか本人の意向に沿って考えられるようなコンサルティングができれば、従業員は安心して働くことができます。
そうした観点からキャリアコンサルティングの質も教育訓練同様、他社との差別化ポイントだといえます。
4.従業員のことを考えたキャリアアップ措置で他社との差別化を!
これから働く派遣会社を選ぶポイントとして、そこで得られるスキルやキャリアステップを重視する人は非常に多くなっています。
そのため、派遣事業者がキャリアアップ措置に力を入れるのは必要不可欠といえます。
従業員のキャリアのことを真剣に考え、そのための手段としてキャリアアップ措置を行っていれば、自ずと人が集まる会社になるはずです。
「派遣の学校」ではこうした派遣会社におけるキャリアアップ措置に関するご相談を受け付けております。
是非お気軽にご連絡ください。