慢性的な人手不足により、派遣会社の需要は増加しており、派遣事業を新しく始める企業もたくさんあります。
そして、その中でも「選ばれる」派遣会社になりたいという思いは、どの会社の方も持っているはずです。
この記事では、良い派遣会社を測る大事な指標のひとつである「優良派遣事業者認定制度」にフォーカスします。
この制度がどのようなものなのか、また認定されるためのポイントはどこにあるのかを解説していきます。
そして認定項目の一つである「教育」に関して特に力を入れている企業が近年増えていることを踏まえ、教育に関するお話も重点的にご説明します。
目次
1. 優良派遣事業者認定制度とは
そもそもこの制度がどのようなものなのか説明できる方はそう多くはないはずです。
字面を見ていると「優良な」派遣会社に対して認定が行われるのは分かりますが、どのような派遣会社が良いと判断されるのでしょうか。
一つずつ解説していきます。
1-1. 三者にとって良い環境をつくるための制度
優良派遣事業者認定制度は、簡単に言えば「三者にとって良い環境をつくるための制度」です。
ここでいう三者とは派遣労働者、派遣元事業者、派遣先事業者のことです。
それぞれがメリットを享受することのできる健全な事業ができるような仕組みを作るため、この制度が生まれました。
1-2. 認定基準は厚生労働省が公開
認定基準は厚生労働省の公式サイトで公開されています。
「社内監査体制に関する基準」や「派遣社員のキャリア形成に関する基準」など項目別の認定基準が設定されています。また、サイト上では基準に達しているか確認するためのチェックリストも見ることができます。
リストはPDF形式でダウンロードすることもできるので、ぜひ一度目を通してみてください。
きっとこの制度の趣旨と今後すべきことが分かるはずです。
2. 優良派遣事業者に認定されることのメリット
ここまでで制度の概要を掴んでいただけましたでしょうか?
それでは、認定を受けることによって得られるメリットをご紹介します。
もちろん認定自体は経営していく上で必須なものではないので、取得しないという選択肢もあります。
しかし、今後事業を存続・拡大していくためには認定を取得することを強くおすすめします。
派遣事業者・派遣社員・派遣先事業者それぞれの立場で享受できるメリットはたくさんありますが、中でも大きなメリットを3つ挙げます。
2-1. メリット①派遣先企業や従業員の企業選びの指標になる
優良派遣事業者として認定されると、認定の効力が続く間は「認定マーク」を使用できるようになります。
派遣社員の受け入れを考えている企業や、派遣社員として働こうと思っている人たちにとって、このマークは企業を選ぶ際の判断材料のひとつになります。
優良派遣事業者認定されている企業の中から一緒に仕事をする相手を選びたいと考えている人も多くいます。
認定を受けることで、そうした人たちの目に留まるようになります。
2-2. メリット②派遣元企業は信頼を得やすくなる
優良派遣事業者の認定は厚生労働省が行います。
そのため、認定を受けると健全な事業を行っていることが対外的に保証されることになります。
これは株式上場する際や銀行の融資を受ける際などに良い影響を及ぼすことがあります。
2-3. メリット③適切な環境整備がなされる
これは根本的な話なのですが、基準を満たすことができるように社内環境の改善を行うと
派遣社員や派遣先企業、そして自社にとって最適な環境を作ることにそのまま繋がります。
事業を営んでいく上でよりよいサイクルが生まれるのは必至なので、むしろ認定を得ること自体よりも大切であるといえます。
3. 申請に必要な必須条件
上記ご紹介したように認定されることでメリットを得ることはできるのですが、派遣会社であればどの企業でも申請できるわけではありません。
厚生労働省が定める要件を満たす必要があります。
事前に要件を確認し、「こんなはずじゃなかった」とならないようにしましょう。
3-1. 9つの要件とは?
要件は全部で9つあり、申請を行う際には全てを満たしている必要があります。
要件は次のとおりです(要約している箇所があります)。
- 申請時に、事業主が労働者派遣事業の許可を受けていること。
- 直近5年間で労働関係法令(労働基準法・職業安定法など)に関する重大な違反をしていないこと。
- 労働者派遣事業の許可・届出後、3年以上の事業実績があること。
- 直近過去3年間、税金を滞納したことがないこと。
- 直近過去3年間、派遣労働者への給与の支払い遅れがなかったこと。
- 直近過去3年間、社会保険料及び労働保険料を滞納していないこと。
- 直近過去3年間、厚生労働省から「労働者派遣事業改善命令」や「労働者派遣事業停止命令」を受けていないこと。
また3年以上前にこうした命令を受けた場合でも、申請時にはすでに命令を解除されていること。- 認定日のある月の前月から遡る12か月間で、違法な法定時間外労働及び休日労働がないこと。
- その他、この制度の趣旨に反する事実がないこと。
一見、9つと聞くと条件がとても多いように聞こえますが、そのひとつひとつを噛み砕いてみると、決してハードルが高いわけではないのが分かります。
法令や社会的通念に従って通常業務をしっかり行っていれば、そこまで意識せずとも申請資格を得ることはできるはずです。
3-2. 新規事業者は3年の基準に抵触しないように注意
ただ、注意点もあります。
問題なく業務を行っていても、新しい企業の場合には3.の事業実績の項目に触れる可能性があります。
少なくとも3年間は事業実績を積み重ねてから申請を行うようにしましょう。
もちろんその間に認定に向けた準備をすることはできますので、3年経過した時点で申請をスムーズに行うことができるように備えておくと良いでしょう。
4. どんな認定基準がある?キャリア教育はどうしたら良い?
要件を満たすことができたら、ようやくスタートラインに立つことができます。
冒頭で認定基準に関して少しだけ触れましたが、ここでは具体的な内容をご紹介します。
そして特に従業員に対するキャリア教育はどのようにしたら良いか、重点を置いてご説明します。
4-1. 4つに大別される認定基準
優良派遣事業者として認定されるためには、大きく分けて下記の4つのジャンルの認定基準を満たす必要があります。
- 事業が健全に行われているか
(事業体に関する基準)- 派遣社員の適正就労が行われているか
(派遣社員の適正就労とフォローアップに関する基準)- 派遣社員への教育や処遇が充実しているか
(派遣社員のキャリア形成と処遇向上の取り組みに関する基準)- 派遣先企業に関する環境整備を行っているか
(派遣先へのサービス提供に関する基準)
ひとつひとつの認定基準に関してより詳しい解説を行っていきます。
4-2. 事業が健全に行われているか
これは「事業体に関する基準」に当たるもので、主に社内の環境に関する指標が定められています。
安定した財務状況で経営が行われているか、社内監査体制が整っているか、といった経営上の基本事項に加え、内勤の社員への教育も基準に含まれています。
またプライバシーポリシーを有し、それに沿って個人情報の管理をしっかりと行っているかという項目もあります。
たくさんの個人情報を知り得る派遣事業者の立場だからこそ、こうした個人情報に関する事柄には人一倍気を配らなければなりません。
4-3. 派遣社員の適正就労がされているか
これは「派遣社員の適正就労とフォローアップに関する基準」にあたるものです。
チェックは派遣社員を採用する段階から始まります。
適正な内容で募集を行い、応募者には明確な説明を行わなければなりません。
そして入社後にも必要な情報は正確に、包み隠さず派遣社員に伝える必要があります。
ここには必要な情報を求められたら開示することも含まれます。
また派遣社員からの意見や不満をしっかりと拾い上げ、それを適切な場所に伝えてより良い環境づくりをしなければなりません。
保険への加入やメンタル面でのサポート、ワークライフバランスへの配慮など派遣社員ひとりひとりがより良い仕事ができるように努めることで、認定の可否に関わらず優良な事業者に近づくことができるといえるでしょう。
4-4. 派遣社員のキャリア形成に関する仕組みや取り組みが充実しているか
そして今回重点を置いてご紹介する基準がこちら。
厚生労働省の文言でいうと「派遣社員のキャリア形成と処遇向上の取り組みに関する基準」にあたるものです。
この項目はその名の通り派遣社員をただ就労させるだけでなく、しっかりとこの先のキャリアまで見据えて管理をしているか測るためのものです。
派遣社員本人の働きに対して適正な評価を下し、フィードバックをすることで成長の糧にすることができますし、キャリア形成に配慮した仕事の配分を行うことで本人のモチベーションにもつながります。
もちろん認定を目指す上で必要な事項ではあるのですが、本当に派遣社員のことを考えていれば自然に行われるであろうことばかりです。
そしてキャリア教育についての言及もあります。
厚生労働省の文言を引用すると、「派遣社員に対して教育訓練の機会提供や支援を行っていること」が基準となっているそうです。
このキャリア教育に関して、どのような教育をどの程度行えばよいか分からず悩まれている企業が多くいらっしゃいます。
ぜひ一度e-Learningで派遣社員のキャリア形成をサポートする「派遣の学校」の導入もご検討ください。
また、こうしたキャリア教育に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談くださいませ。
4-5. 派遣先企業に関する環境整備を行っているか
こちらは「派遣先へのサービス提供に関する基準」にあたる内容です。
派遣会社は人員が必要な企業に対して社員を派遣しますが、その派遣先で業務を行う上での必要事項を基準としてまとめたものとなっています。
派遣先企業のニーズを汲み取った上でスムーズな仕事ができるような仕組みの構築や取り組みの実施が求められます。
社会的規範に加えて派遣先のルールやマナーが存在することもあるので、そうした部分に対応するための適切な教育も必要とされています。
5. 申請から認定までのスケジュール
優良派遣事業者として認定されるまでのスケジュール感を把握していただくため、過去の認定スケジュールをもとに流れをご説明します。
申請してからすぐに認定がもらえるわけではないので、優良派遣事業者認定に向けた申請を行う際にはスケジュールに余裕を持つ必要があります。
5-1. 大まかな流れ
申請から認定までの大まかな流れは下記の通りです。
- 説明会への参加
- 申請
- 審査(現地・オンライン)
- 認定事業者の公表
まずは全国で開かれる説明会に参加し、必要な書類を揃えて申請を行います。
その上で審査に必要な事前エビデンスを審査日までに提出し、現地もしくはオンライン上での審査を受けます。
そしてその後審査が行われると、認定事業者の公表により認定されたかどうかが分かります。
5-2. 前期審査と後期審査の期間
認定審査は1年に前期と後期の2回行われます。
申請の受付期間はそれぞれ決まっているため、もし申請が間に合わなかった場合には次期の申し込み期間まで待たなければなりません。
例年申請の受付は前期で7月上旬〜下旬まで、後期で11月中旬〜下旬となっています。
そして最終的な認定公表は前期で9月30日、後期で3月31日です。
申請から認定までの期間は前期で約2ヶ月、後期で約4ヶ月であることを考えると、前期日程の方が審査期間が短いことになります。
ただ、実際には申請を行う前に説明会に参加する必要があるため、そのスケジュールも確保しておかなければなりません。
5-3. 認定されるまでのスケジュール
ここからは2021年度後期の認定審査スケジュールをもとに、申請から最終的に認定を得るまでに必要な期間をより詳しくご紹介します。
2021年度後期のスケジュールは下記の通りです。
- 8月24日〜9月21日 全国説明会
- 10月21日〜11月12日 後期申請受付
- 申請受付後〜1月末まで 審査期間(訪問・オンライン)
- 3月31日(予定) 後期認定企業公表
説明会への参加から見ると最大7ヶ月以上かかることになります。
そのため申請後「すぐ」認定とはいえないでしょう。
まずは説明会へ参加し、早めに準備を進めておくことをおすすめします。
厚生労働省のホームページからは最新の日程が公表されているので、申請を考えている日程のスケジュールを事前に確認しておきましょう!
6. 押さえておくべきポイント
この記事でご紹介した内容から、優良派遣事業者として認定を受けるために押さえておくべきポイントを3つにまとめました。
どれも大切なことなので、申請を行う際にはぜひ心がけてみてください。
6-1. 事前に情報収集をしておく
制度の概要や認定基準、申請要件などの情報は厚生労働省の公式サイトですべて公開されています。
認定基準については項目ごとの内容が端的にまとめられたチェックリストを閲覧することができるので、審査前に自社の状況をセルフチェックできるようになっています。
申請のスケジュールは少し長めなので、認定されず再度申請を行うとなるとかなりの時間がかかってしまいます。
事前の準備を怠らないようにして確実に認定を得られるようにしましょう。
6-2. スケジュール管理をしっかりと
事前の準備に通じる部分もありますが、申請を行う上でスケジュール管理は必須ともいえます。
申請後には、訪問もしくはオンラインでの審査の前に、実績や事例、管理状況を示すエビデンスを提出する必要があります。
この際に必要となる書類は複数になることも多いため、エビデンスを準備するための期間も考慮してスケジュールを組みましょう。
最新の認定審査のスケジュールは公式サイトで確認できます。
6-3. 認定のためではなくより良い環境のために
この認定制度の趣旨を鑑みると、厚生労働省は優良派遣事業者の認定を行うことで一定の基準をクリアした「優良な」事業者を増やし、識別できるようにしようとしていることが分かります。
そのため認定だけを狙って一時的な対策をするのはおすすめできません。
認定基準には従業員のために、派遣先企業のために、そして自分たちの企業のために必要なことが明確に示されています。
長い目で見れば、認定を取得することで認定の取得以外のメリットもたくさん享受できることでしょう。
7. 従業員や企業のために制度認定を目指しましょう
優良派遣事業者に認定されることはもちろんたくさんのメリットをもたらしますが、ただ認定だけを目的にするべきではありません。
従業員や会社のことを本当によく考え、少しでも良い環境を作ろうと努めなければならないのです。
よい環境づくりの先に、制度認定という副産物があるようなイメージです。
そして晴れて優良事業者として認定を受けた後も、それで終わりではありません。
その良い環境を保ち、従業員や会社が成長を続けられるように臨機応変に派遣会社としてのあり方を変えていかなければなりません。
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