eラーニングによる学習効果はどれくらいあるのか?

株式会社プロシーズはeラーニング事業に取り組んでおり、LMSや教材を開発し、主に多くの法人のお客様にご利用いただいております。同質の教材内容を一度に多くの受講者に配信でき、いつでもどこでも受講可能、学習したかどうかは受講ログで確認できる、など多くのメリットがありますが、これらは教育を管理する側にとってのメリットです。受講者にとってのメリットは、学習のしやすさや学習効率の良さ、学習効果の高さなどになってくるのでしょうが、受講者はそれを享受できているのか?弊社のLMSには「読み飛ばし防止機能」という、文字通り動画のスキップができないようにする機能がついているのですが、管理者の方々には大変喜ばれている機能です。ただ、受講者にとってはどうなのでしょうか?読み飛ばしを防止せざるを得ないということは、逆に言うと読み飛ばす受講者が多いということで、ではなぜ読み飛ばすのかというと教材がつまらなかったり、動画を見る意味を感じなかったりしているのではなのいでしょうか?読み飛ばしの本質的な解決策は、受講者が見たくなる、受講したくなる教材を提供することだと思うのです。

このような問題意識から、受講者がどれほど集中してeラーニング学習に取り組んでいるのかを明示化できないか?と思い立ちました。これができるようになると、集中力が上がる/下がる箇所の特徴を見出せる可能性が広がり、結果的に集中力を常に高く保てる教材作りが可能になるかもしれません。既存教材も集中力が低い箇所を改修し、より学習効果の高い教材に生まれ変わらせることもできるかもしれません。
また、受講者の集中度をスコア化し、それが一定値を下回った場合には動画を一時停止して「一休みしませんか?」といったアラートを表示したり、学習ユニット終了後に「あなたの集中度の推移」としてフィードバックを行ったりすることもできるだろうと。また、ライブ授業においては、講師が受講生全員の集中度を時系列で把握し、反応の薄い生徒に対して適切な働きかけを行うといった、次世代の「ラーニングウェア」の核となる機能を構想しておりました。

集中しているかどうかを測定できるデバイスが存在するのは知っていましたが、不特定多数の受講者全てにそのデバイスを着けてもらうのは現実的ではありません。特別なデバイスがなくても集中度を測定することはできないか?と考え、データサイエンス事業で実績を豊富にお持ちの株式会社ピープルドット様のご協力の元、PCやスマートフォンのWebカメラのみで受講者の「集中度」をリアルタイムに測定するモジュールの研究開発プロジェクトを始動させました。

 

科学的根拠に基づく「集中」の定義

プロジェクトの初期段階において、私たちは「集中」という主観的な状態を、いかに客観的かつ科学的なデータとして定義するかに注力しました。そこで正解データ(教師データ)として採用したのが、株式会社NeU様の脳血流測定デバイス「HOT-2000」です。

このデバイスは、前頭葉左部(CEN:Central Executive Network)と脳の静止状態に関わるネットワーク(DMN:Default Mode Network)の脳血流を計測します。先行研究によれば、暗算などの精神集中課題を解く際には前頭葉の脳血流が増加し、逆に安静時にはDMNが活性化することが知られています。私たちはこれに基づき、「前頭葉の指標値が正の値かつ、DMNの指標値が負の値である状態」を客観的な集中状態と定義しました。

 

仮説の構築:視線とまばたきに隠されたサイン

Webカメラだけでこの脳血流の状態を推測するために、私たちは初期仮説を立てました。それは、「集中している時は視線の移動距離が短く、まばたきの回数も少なくなる」というものです。

この仮説を検証するため、Webカメラによる画像解析に加え、精度の高い比較対象としてTobiiのアイトラッキングデバイスや、まばたきを検知するJINS MEMEといった専門機材を導入しました。説明変数(予測の手掛かり)としては、視線の移動距離、まばたきの間隔、頭の動き(ヨー角・ピッチ角)、さらには顔の特徴量(口幅、眉の高さ、目の見開きなど)といった多角的なデータを収集することにしました。

 

「実験1」の実施と、突きつけられた残酷な現実

2023年後半、私たちは約45名の被験者を対象とした「実験1」を敢行しました。実験では、集中力が上がるであろうと想定した教材コンテンツ、テストを、また集中力が下がるであろう教材コンテンツを用意し、視聴・実施してもらいました。

しかし、得られたデータは私たちの期待を大きく裏切るものでした。収集した膨大なデータを解析した結果、視線移動距離やまばたきの回数と、脳血流指標(HOT-2000の値)の間に、明確な相関が見られなかったのです。
例えば、下図の左のグラフは集中時と非集中時での視線移動平均距離を比較したものですが、有意な差が見られず、関係性が低いということがわかりました。
まばたき回数は、下図の右のグラフからすると3、4、5のコンテンツでは差があることが確認できますが、外れ値を含んでいたため、それを除くと同様に関係性が低いということがわかりました。

対象サンプルのうち、私たちの仮説(集中時は視線移動が少なく、まばたきも少ない)に一致したケースはわずか23.4%に過ぎませんでした。また、脳血流の変化を被説明変数とした回帰分析を行っても、決定係数(モデルの当てはまりの良さ)は極めて低く、視線や頭の動きだけでは集中度を説明できないことが判明しました。

この最初の壁により、プロジェクトは大きな岐路に立たされます。単なる「外から見える動き」だけでは、人間の内面的な「集中」を捉えることはできない。この事実は、私たちが挑んでいる課題の難易度が、当初の想定を遥かに超えていることを物語っていました。しかし、物語はここから、さらなる「迷宮」へと進んでいくことになります。

 

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